史実を辿る「走れメロス」計算ーアリストクセノスの音律編ー ♯2 ('24.05.29)#
メロスとセリヌンティウスのモデルは、ピタゴラス教団の同居人#
太宰治がなぞった「走れメロス」の物語について、歴史を遡って調べている(史実を辿る「走れメロス」計算 ♯1 ('24.05.24))。 最も原点に近いのは、紀元前4世紀の哲学者であるアリストクセノスが、シラクサの王だったディオニュシオス2世自身から聞いたという話だ。 ディオニュシオス2世いわく、死刑を宣告されたピタゴラス教団のフィンチアスが、共に暮らしていたピタゴラス教団のダモーンを人質に、シラクサ市内の住居まで往復したという話である。
ピタゴラス教団やアリストテレスに学んだアリストクセノス#
メロスと友人そして王も含めた3人の話を、直接王から聞いたアリストクセノスは、ピタゴラス教団で学んだ後、アリストテレスに師事した。 アリストクセノスが聞いたという話は、彼自身の著作としては残っていない。 現代に残るアリストクセノスが書いたものは、音楽理論を書いた『ハルモニア原論』だけである。
アリストクセノスが考えた純正律#
アリストクセノスは、彼の時代に存在したピタゴラス音階などに満足できず、その後の時代に完成される平均律や純正律といった、音楽の土台となる音律を考案した。 平均律であれば後にメルセンヌ、純正律であれば後にプトレマイオスが、それぞれ洗練された形に作り直したが、アリストクセノスはそうした後世の音楽研究の先達だった。
そこで、今日はピタゴラス音律や、純正律、そして平均律の、音の高さ比率を眺めてみようと思う。
まずはピタゴラス音律を眺めてみる#
まずは、1オクターブ、つまり音の高さが2倍になるまでの音の高さ(周波数)を、ピタゴラス音律の比率で眺めてみよう。 pytuningパッケージを使って計算してみると、何とも綺麗ではない比率が並んでいることがわかる。
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# 音律を生成するため
from pytuning.scales import create_edo_scale,create_pythagorean_scale,create_diatonic_scale
from pytuning.constants import five_limit_constructors
# 数式表示をさせるため
from IPython.display import display, Math
from sympy import latex
def my_display(l): # 横に並べるために、latex文字列を作り、Math->Display
# display(l)では、縦に並んでしまう
return display(Math(', '.join([("%s" % latex(t)) for t in l])))
pythag_scale = create_pythagorean_scale(12)
my_display(pythag_scale)
次は純正律を眺めてみよう#
次は、アリストクセノスが思い描き、プトレマイオスが作った純正律の比率だ。 とてもシンプルで綺麗な比率になっている。
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pure_scale = create_diatonic_scale( # 純正律
five_limit_constructors, "TtsTtTs")
my_display(pure_scale)
最後に平均律を眺めてみる#
最後は、やはりアリストクセノスが思い描き、メルセンヌが算出した平均律だ。 有理的には全く綺麗ではないが、\(\sqrt{2}\)という数字を受け入れさえすれば実に綺麗な比率となっている。
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edo_scale = create_edo_scale(12) # 平均律
my_display(edo_scale)
「寄り道」も楽しい#
このシリーズの本来の目的は、史実にもとづきつつ「メロスの移動速度を検証」することであった。 それが、第2回目の今回は、そうした内容とは全く離れた内容になってしまった。
しかし、太宰治が描いた「走れメロス」の物語ではないが、寄り道も楽しいものである。 昨日登場したメルセンヌが、脈絡なく、今日も登場したりする。 もしかしたら、それは何かの必然で、空に浮かぶ星座のように、繋がっていくのかもしれない。