平安貴族の始業時間が早朝6時半!というミスリード('24.06.12)#
平安貴族の始業時間、なんと早朝6時半!?#
歴史本を読んでいると、こんな一節があった。
官人の始業時間は、なんと早朝6時半!
平城京の朝は早かった。官人たちの出勤時間は規則で決められており、中務(なかつかさ)省陰陽寮の漏刻博士が水時計で正確に時間を計って、宮殿の開閉時刻を知らせた。朱雀門など宮殿の周りの門や羅城門の開門は午前3時、大極殿や朝堂院の開門は午前6時半だ。
平安貴族が仕事を始める時刻は、確かに「大極殿や朝堂院の開門」と時を同じくするという(源氏物語と平安貴族の生活と文化についての研究-貴族の一日の生活について-)。 けれど、「始業時間は、なんと早朝6時半!」という言い方は、少しミスリードを誘う文章だろう。
平安時代は、江戸時代などと同じように、不定時報が使われていた。 つまり、四季時々の日の出と日の入り時刻を基準として、夏には昼間時間帯の時間刻みが伸びて(夜の時間刻みは縮み)、冬には昼間時間帯の時間刻みが縮み(夜の時間刻みは延びる)時刻が使われていた。
だから、「始業時間は、なんと早朝6時半!」と言うのは全く正確でなく、正しくは夏も冬も「日の出から1時間弱過ぎた頃に仕事を始める」が正確なところだ。
試しに、夏至や冬至、そして春分・秋分の時期の京都での日の出時刻を調べてみる。
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import ephem
from datetime import datetime
kyoto = ephem.Observer()
kyoto.lat = '35.0116'
kyoto.lon = '135.7681'
sun = ephem.Sun()
#kyoto.date = datetime.utcnow() # Use UTC time
kyoto.date = ephem.Date('2024/06/20 18:0:0.0')
sunrise = kyoto.next_rising(sun)
sunrise_time = ephem.localtime(sunrise)
print("夏至の日の出時間:", sunrise_time)
夏至の日の出時間: 2024-06-21 04:43:03.269476
Show code cell source
kyoto.date = ephem.Date('2024/12/20 18:0:0.0')
sunrise = kyoto.next_rising(sun)
sunrise_time = ephem.localtime(sunrise)
print("冬至の日の出時間:", sunrise_time)
冬至の日の出時間: 2024-12-21 07:00:41.370270
Show code cell source
kyoto.date = ephem.Date('2024/3/20 18:0:0.0')
sunrise = kyoto.next_rising(sun)
sunrise_time = ephem.localtime(sunrise)
print("春分・秋分の日の出時間:", sunrise_time)
春分・秋分の日の出時間: 2024-03-21 05:58:58.390826
これらの時間を踏まえて、「日の出から1時間弱過ぎた頃に仕事を始める」とするとこうなる。 夏や朝5時30分くらいに仕事を始め、冬は朝8時前に仕事を始める。 ……夏には朝6時からラジオ体操を始める日本人的には、割と普通な感じだ。 日の出が遅い冬でも、朝8時前から仕事を始めるということだと、現在の時刻システムで通年表示をしてしまった「始業時間は、なんと早朝6時半!」というニュアンスとは、ずいぶん違う気がする。
平安京に時を知らせた「陰陽寮 鐘鼓楼」の場所を眺めよう#
平安京全体に時を知らせたという、中務省(飛鳥浄御原令制では中宮と表記された)の陰陽寮はどこにあったのだろう? そこで、まずは 平安京跡データベース から、平安京条坊データをGeoJSONとしてダウンロードして、現在の地図に重ねてみる。 そして、その上で、平安宮の中務省があった場所にマーカーを重ねてみよう。 それが、下に描いた地図になる。
Show code cell source
# foliumパッケージを使う
import folium
import pandas as pd
# 中心とする緯度経度
kyoto = [35.0007407156917, 135.7408483539235]
# GeoJsonデータ
geojson_file='data/day_240612_heiankyo_jobo.geojson'
# 地図を作る
def create_map(zoom_level):
fmap = folium.Map(
location=kyoto,
zoom_start=zoom_level,
attr='OpenStreetMap & 国土地理院地図'
)
style = {
#'fillColor':'#0000FF90',
'color':'#FF333360',
'weight':1}
folium.GeoJson(
open(geojson_file).read(),
name='平安京',
style_function=lambda x:style
).add_to(fmap)
folium.Marker(
location=[35.0181355877448, 135.74563738474154],
popup="<a href=\"https://kyotofukoh.jp/report2252.html\"><i>平安宮 中務省東面築地跡</i></a>"
).add_to(fmap)
folium.LayerControl().add_to(fmap)
return fmap # 表示
# 地図を描く
create_map(13)
平安京に響く時の鐘の音#
現在の御所がある場所ではなく、当時の平安京の中心地域に陰陽寮は位置していた。 そして、陰陽寮にあった鐘鼓楼から、平安京への時を知らせる鐘の音が広がっていた。
この場所で鐘をついた時、当時の平安京全体でどんな風に鐘の音が響き渡ったのか、いつかそんな計算や確認してみようと思う。 そしてまた、光の君が時を重ねる源氏物語、あるいは安倍晴明の物語などを踏まえながら、平安京に時を知らせていた鐘についても、まだまだ調べてみようと思う。